パニック障害(不安神経症)への正しい「家族の対応」と接し方
2017/01/20
パニック障害の人にとって、家族は、身近な存在ゆえに、「敵」になったり「味方」になったりします。そんな家族がよき理解者になるには、どんなことに注意したらよいのでしょうか?
ここでは、パニック障害への家族の対応と接し方についてお伝えをしていきたいと思います。
パニック障害への間違った家族の対応
家族とっては、そんなつもりはなくても、本人にとっては、傷ついてしまうこともあります。ここでは、本人へ対する間違った声掛けや対応を紹介したいと思います。
自分の行動と照らし合わせながら見て頂けらと思います。
間違った対応1
心配のあまり、つききりで手とり足とり世話やきすぎる。本人の治そうという意欲を失わせてしまう。
間違った対応2
電車に乗れないと悩みを話す本人に「電車に乗れない、外出できないなんて、根性と努力が足りない」などと非難する。
間違った対応3
本人が悩んでいる理由が理解できず、「どうして?」「なんで?」と本人に原因を追究してしまう。
間違った対応4
「しっかりしろ、がんばれ、成せばなる」などと叱咤激励する
パニック障害は病気であると家族が理解すること
もし、家族がパニック障害になったら、どのような対応をしたらよいのでしょうか。
まず、大切なのは、病気について、正しく理解することです。病気であるという認識がないと、本人の言動が理解できず、「しっかりしろ」などと叱りつけてしまいかねません。これは、本人に孤独感を与え、病気の悪化を招きます。
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本人と一緒に受診してあげましょう
パニック障害が疑われる場合は、専門医を受診するよう、家族が働きかけて下さい。広場恐怖がある人の受診や外出には、付き添ってあげるのもよいでしょう。
ただし、家族がベッタリしすぎるのもよくありません。ほどよい距離を保ちながら、温かく見守ることが大切です。
受診のめやす
動悸や息切れ、不安が突然起こる
発作がまた起こるのではとおそれる
出勤や外出をしぶる
うつ気分やおっくう感がみられる
体調が思わしくない
ときどき泣き顔を見せる
このような、様子が複数みられたら、受診を勧めてあげてください。受診へ同行してあげることで、本人の不安も軽減できます。
パニック発作が起きてしまった時の家族の対応
発作が起こったときには、まず、家族もあわてないことが大切です。「すぐにおさまるから大丈夫」と気持ちを落ち着かせます。抗不安薬の服用をすすめたり、腹式呼吸をするように助言するのもよいでしょう。
肩を抱いたり、背中をさする、手を握るなど、大丈夫という安心感を与えてあげましょう。
家族が言ってはいけない禁句集
- 何をやっているんだ
- しっかりしろ性格が弱い証拠だ
- どうしてこんなことになったの
- (本人の前でほかの人に)お前のせいだ
- 根性がなさすぎる
- 気のせいだ
- 気のもちようだ
- 性格を変えないと治らない
- そんなことでは、また発作が起こるかもしれないぞ
日常生活の中で家族が支えたいこと
家族は、マネージャー役となり、療養に適した環境をととのえましょう。患者さんの身近に家族は、もっとも重要な「治療協力者」です。きちんと服薬しているか、生活リズムを乱していないか、症状が悪化していないかなどに気を配ってあげましょう。
食事を気をつける
パニック障害にうつ病を併発すると、食欲が過剰になり、特に甘い物を食べ続けるような異常な食行動があらわれやすくなります。
食欲があるのは、通常では健康のあらわれであり、家族もつい見過ごしてしまいますが、これは病気による不安感からくるもので、本人ひとりでは克服がむずかしいものです。
家族は、食事のメニューづくりや、運動計画をたてるなどして、食事のリズムをととのえる協力をして下さい。食事は、患者さんといっしょにとるようにすることも大切です。食卓を共にすることで、食事の量や栄養の管理をフォローできます。
起床への協力をする
パニック障害の人は、睡眠障害や仮眠などのために、睡眠・覚醒のリズムがくずれて昼と夜が逆転したような生活になりがちです。これでは病気も悪化してしまいますので、家族は、規則正しい生活リズムをとり戻せるよう協力します。
ただし、朝、何度も起こさなければならないのは大変ですから、本人と話し合い、ルールを決めるとよいでしょう。
何時に何回、どんなふうに声をかけるか、本人の希望を聞き、無理のないものならそのとおりにすることを約束します。「起こし方」を約束しただけですから、起きなくてもしからないことがポイントです。
不毛な言い争いは避けましょう。約束どおりに起きてきたら、「おはよう」と声をかけ、家族も喜んでいることを伝えます。
治療への協力をする
薬を用法・用量どおりに飲むことと、定期的に通院することは療養生活の基本で、これを守るように導くことは家族の役割です。
通院には、毎回は無理でも、可能な場合は同行してあげて下さい。患者さんの様子を、医師へ伝えることができます。また、いっしょに医師の説明を聞くことで病気への理解が深まりますし、気になることがあれば、医師からアドバイスを受けることもできます。患者さんと一緒に病気を治していくという気持ちが大切です。
生活環境をととのえる
病気療養のために休職(休学)したとしても、家に閉じこもってばかりでは生活のリズムが乱れ、回復からは遠くなります。散歩や買い物など、外出の機会をつくったり、掃除や炊事といった家事の分担を頼むなど、患者さんが前向きになれるような生活をととのえてあげましょう。
家族関係に配慮する
心の病気にとってストレスは、中でも人間関係のストレスは、症状を悪化させる大きなリスクになります。患者さんがおだやかに過ごせるよう、母親、もしくは父親が家庭内の調整役を務めましょう。
患者さんに兄弟姉妹がいる場合、その人たちに過重な負担がかからないように配慮することも必要です。「〇〇の病気で、あなたにもつらい思いをさせているね。協力してくれて助かる、ありがとう」と、感謝と愛情を言葉にして伝えましょう。
調整の役割がつらくなったら、医師に相談して下さい。
身近にいる家族だからこそできること
療養中の患者さんにとって家族は、マネージャーのような存在といえるかもしれません。日常生活の中で、家族にしかできない役割があるからです。
治療のために重要なのは、服薬と通院の管理です。どちらも、患者さんが自分自身のこととして、自己管理ができればよいのですが、むずしいケースもあります。
そばにいる家族が気を配り、協力してあげてください。また、本人にはわかりにくい変化もサインも、家族だったら気づけますから、見逃さず対処するようにします。
症状の悪化などは、医師と相談しなければなりません。プラスの変化があれば積極的に見つけ、本人に伝えれるのも家族ならではのことです。
回復には波があり、なかなかよくならないと患者さんは落ち込みますが、それでも、「前ほどひどくないよ」とタイミングよく伝えてあげることができれば、本人には励みになります。
ひきこもりがちになっていたら、買い物や散歩などに連れ出す、家事の手伝いを頼むなど、患者さんの回復につながるような日常生活を、上手にマネジメントしてあげてください。
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広場恐怖があり依存的になっている患者を治療へ導く方法
広場恐怖のために外出できない患者さんには、最初は家族が付き添います。ただし、もっとも大切なことは、自分で歩き始めるよう導くことです。保護するだけでは、病気は長期化します。
治療へのモチベーションを作る
広場恐怖は、パニック障害の人の80%以上にみられますが、治療をすれば治すことができます。しかし、行動が制限されていても、家族の助けで特に困らない状況にある患者さんは、なかなか治療にとり組みません。
こういう人には、「治りたい」「治らなければならない」というモチベーション(動機づけ)がもっとも大切になります。
ちょうど、食欲をがまんできず食事のコントロールができなかった糖尿病の人が、「このままでは失明する」と聞かされると、まじめに食事制限を始める場合と似ています。
しかし、広場恐怖の克服には、糖尿病の失明にあたるような、わかりやすいモチベーションはありません。患者さんそれぞれに「治りたい」事情と異なるからです。
家族だったら、患者さんの「やりたい」ことは何か、わかるはず。だれかと一緒ではなく、一人で親友に会いに行きおしゃべりをしたい、といったことでもよいと思います。その望みをかなえるため、治療をしようと説得します。
「治ってほしい」と伝えつづける
患者さんは、甘えられる状況にいる限り、なかなか治療には踏み切りません。家族や周囲にいる人は、この点をぜひ理解し、医師と相談しながら治療へと導きます。
いつまでも患者さんを甘やかしていては、自分の足で歩けるようにはなりません。不安や恐怖に共感し、常に理解する姿勢をしめしながらも、断固とした態度を示すことが大切なのです。
あきらめず、「治ってほしい」「治ってくれなければ家族が困る」というメッセージを、おりにふれ伝え続けて下さい。
経験は糧になっていくと伝える
広場恐怖の治療(認知行動療法)では、いやだと思っている対象や状況に、わざわざ自分から向かっていくので、不安感や不快感をいかに乗り越えるかがポイントです。
そのためには、患者さんにも自分の足で歩き始めるこころがまえが求められます。頼るべきは自分の足だけ。だれかに代わってもらうわけにはいきません。
認知行動療法は、一時的に後戻りすることがあります。体調をくずしたり、生活のリズムがかわったりして、思うように行動できず、症状が再燃することもあります。
だからといって、それまでの行動はゼロにはなりません。経験したことは必ず蓄積され、家族はこのことをぜひ伝えてあげてください。そして、患者さんをまるごと背負ってしまわず、自分の足で歩けるようになるまで、見守っていってあげてください。
いつまでも付き添っていては、広場恐怖は治らない
パニック障害の人には、パニック発作の恐ろしさから身を守りたいため、保護を求める気持ちが強く出ることがあります。これが習慣化すると、だんだん依存的になっていきます。
病気になる前は行動力があり、何でも自分で出来た人でも、発作が起こるようになると過度に他人に依存するようになるのです。特に、高度な広場恐怖をもつ人に見られます。
広場恐怖があり、ひとりでは外出できない患者さんには、家族が付き添ってあげる必要があります。家にひきこもっているより、少しずつでも外出することが、恐怖を克服することにつながらるからです。
ただし、いつまでも本人に付き添って助けていると、広場恐怖は改善せず、依存的になっている心も治りません。助けてあげることは、やさしさのあらわれではなく、実は本人から自立の機会をうばってしまうことにもなるのです。
家族は同伴者として必要な場合は手をさしのべ、その一方では、様子を見ながら、ひとりで行動できるように導くことも大切です。
自傷行為は「たすけて」のサイン
自傷行為は「たすけて」のサインです。患者さんは家族の理解を求めています。リストカットをはじめとする自傷行為は、「死ぬほど苦しい」「たすけてほしい」というサインです。
患者さんは、家族の理解を求めているのです。「どうせ、狂言だろう」と軽く考えず、サインはしっかりと受け止めましょう。
パニック障害が原因で自傷行為をする患者の心理
苦しさからのがれたい
パニック性不安うつ病の自傷行為は、不安・抑うつ発作(激しい情動の変化)に耐えられず、その苦しさから逃れるための行動です。
たとえばリストカットは、自責感(自分の責任ではないのに、責任を感じて自分を責めてしまうこと)や、離人症状(自分が自分でないような、現実感を失う感覚)から逃げ出したいために、自分に強い痛みの刺激を与え、生きていることを確かめようとする行為です。
リストカットがもっとも起こりやすい時間は、不安・抑うつ発作がよくあらわれる夕暮れから深夜にかけてです。
助けを求めるサイン
患者さんは、ほんとうに死を願っているわけではありません。
「死ぬほど苦しんでいる」ことをまわりに伝え、「助けを求める」サインを出すため、自傷行為に走ることが多いのです。
だからといって、周囲の人は、ほんとうに死ぬ気ではないのだから「狂言だ」などと、軽く考えては絶対にいけません。患者さんは理解されないことに孤独感を深め、病気は悪化します。
実際、自傷行為の傷が思った以上に深くなり、深刻な事態になることもあるのです。
自殺を考える割合(生涯自殺企図率)の違い
精神疾患がない: 1%
パニック障害のみ: 7%
うつ病のみ: 7.9%
パニック+うつ病: 19.5%
一生の間に自殺しよう考える割合を「生涯自殺企図率」といいます。精神疾患をもたない人はわずか1%ですが、精神疾患になると率は上がります。パニック障害だけの場合は7%、うつ病だけの場合は7.9%ですが、パニック障害とうつ病を併発すると19.5%と、3倍近くに増えます。
パニック障害へ家族ができる対処
こんなときに、家族はどんなことができるのでしょうか。
「わかろう」とする思いをもつ
リストカットをした人に対しては、「どうして、そんなことをしたの!」としかるのではなく、「それほどツラかったのね」と、いたわる言い方をします。
心の病気の苦しさは、本人にしかわからないところがありますが、「りかいしようとする」思いは、患者さんにも必ず伝わり、それが自傷行為への抑止力にもなります。
適切な治療をうながす
パニック性不安うつ病の人には、週に3~4回、不安・抑うつ発作が起こるというデータがあります。自傷行為は、繰り返されるこの発作から逃れるための行動です。そこでまず、不安・抑うつ発作を薬や認知行動療法で抑えることが大切です。
また、自責感は、十分な認知療法を行って改善させます。
衝動的な行為に注意する
助けを求めるサインとしての自傷行為ではなく、怒り発作が激しくなったり、攻撃性をもったときに、衝動的に自殺してしまう場合がありますので注意が必要です。
自傷行為にいたった苦しい心理を理解する
健康な人にくらべ、うつ病の人の自殺率が高いことはよく知られていますが、パニック障害は、ほかの精神疾患より自殺をはかる人が少ないといわれています。
しかし、パニック障害にうつ病を併発すると(パニック性不安うつ病)、自殺企図の危険率(企図率)はグンと高くなります。自殺と自殺企図(自傷行為)とは違います。
パニック障害の場合は実際に自殺をはかるというより、一時的に「自殺願望」が高くなり、自傷行為をしてしまうのです。自傷行為とは、自分で自分を傷つける行為で、リストカット(手首を切ること)の名は耳にすることも多いでしょう。
ほかに、頭を壁に打ち付けたり、皮膚に爪を立ててかきむしったり、腕を歯でかむような行為もあります。家族など周囲にいる人にとって、こういった行為はショックでもあり、心配なことでもあります。
家族は、「本気ではないのだから」と片づけることは、けっしてしてはなりません。行為にいたった患者さんの心理を理解し、対処することが大切です。
うつ状態なら休養を優先させる
パニック障害はうつ状態を併発することがあります。あれっ、なんか変だ、と気づいたら、さりげなく休養をすすめてみましょう。本人には自分の状態がわからないこともあります。
うつ状態になると、気分が落ち込み、「そっとしておいてほしい」と、1人になりたがります。ときには感情が波立っているせいか、ささいなことで怒ったりします。
しかし、本人はけっして1人になりたいわけではありません。内心では孤独を感じていて、家族や周囲の人に心を癒してもらいたいと思っています。
家族として大切なことは、腫れ物に触るような態度ではなく、寛容に見守ること。
本人がうつ状態になっているとわかったら、休養をすすめてみましょう。本人は休むことに罪悪感をもってあせっていることが多いのです。
家族や周囲が本人の異常に気づくめやす
本人がうつ状態やパニック障害になる前にやなった後には、必ずなんらかのサインがあります。迅速な対応をとるためにも、
そのサインを見逃さないことが大切です。以下のような様子や症状が見られたら注意が必要です。
- 身だしなみに気をつかわなくなってきた
- おもしろいはずのテレビ番組を見ても笑わない
- イライラして人の話を最後まで聞かず怒る
- ボーッとしていて話しかけても返事をしない
- 朝早く目覚めたり、夜なかなか寝つけない
- 沈んだ表情ばかりで、笑顔がまったくなくなる
- いままでしていた家事、仕事などをしたがらない
「自殺しない」と約束させる
うつ状態の人に対して、周囲の人がもっとも注意しなければならないのは自殺です。
自殺を考える人は、なんらかのサインを出します。たとえば、「消えてしまいたい、、」などの言葉。日記や手紙などの整理。人との接触を断つなどです。妙な落ち着きがみられた要注意です。自殺を決意したのかもしれないからです。
家族は患者を1人にしないこと。日ごろから言動に注意し、頃合いを見はからって、自殺しないと約束させることが大切です。
励ましはあせりのもととなる
「頑張って」などという励ましの言葉は、慎重に使わなければなりません。
パニック障害だけでうつ状態を併発していないときには、励ましは時としていい効果をもたらします。
しかし、うつ状態を併発している場合には、けっして励ましてはいけません。励ましが本人を追い詰めてしまいます。
退職など重要な決定は先延ばしに
うつ状態のときには、判断力が低下します。退職や離婚、婚約の解消などの重要は、うつ状態が治るまで保留しましょう。
自責の念のため、周囲に迷惑をかけているとの思い込みから決意しがちです。その後、治ってから後悔します。
うつ状態のチェックリスト
質問に5つ以上あてはまるようなら、うつ状態になっている疑いがあります。
- 毎日のように、ほとんど1日中ずっと気分が沈んでいる
- 何に対しても興味がわかず、楽しめない
- 毎日のように食欲が低下、または体重の増減が激しい
- 毎晩のように、寝つけない、夜中や早朝に目が覚める
- 毎日のように、動作や話し方が遅い、またはいらいらしたり、落ち着きがない
- 毎日のように、疲れを感じたり、気力がわかない
- 毎日のように、自分に価値がない。または、申し訳ないと感じる
- 毎日のように、仕事や家事に集中したり、決断することができない
- この世から消えてしまいたいと思うことがある
以上が、パニック障害への家族の対応と、対処法です。
うつ病とパニック障害とでは、治療方法も変わってきますので、適切な治療を受けられるように導いてあげてください。家族の協力のおかげで、早期に治療をうけることができ、すぐに症状を克服できた事例もたくさんあります。
ポイントは、症状が酷くなる前に治療を受けることです。
うつ病とパニック障害を併発してしまっては治療も長引きますし、リスクも高まります。そうなる前に治療を受けさせてあげましょう。家族みんなで力になってあげてください。